人の心に火をつける(考育)
山本五十六の有名な言葉「やって見せ、言って聞かせ、させてみて、褒めて
やらねば人は動かじ」は、リーダーシップと教育の両面での優れた指針を提
供してくれました。過去の日本が世界に誇る強固な組織力と精神を育んだ根
底にありました。リーダーが率先して行動し、その行動を説明し、部下に実
践させ、そしてその努力を認めることで、集団全体が一丸となり、目標達成
へと導かれたのだと思います。
しかし、21世紀の現代社会では、この伝統的な方法だけで十分とは言えない
場合も出てきているように感じます。サラリーマン文化が広がり、社会全体
が標準化された労働環境に馴染む中で、個々人のクリエイティビティや自主
性が求められるようになってきました。個人の目標と会社の目標が一致する
ことが少しあいまいになってきている気がします。
私たちが目指すべきは、「教育」から「考育」への転換と感じています。
「考育」とは、私の造語であり、教え込むのではなく、考えさせ、育てるこ
とに重点を置いた教育法です。「考育」は、単に知識を伝えるのではなく、
個人が自ら考え、学び、成長するプロセスを促進する教育法です。AI技術が
進むと会社の評価も二分化されて、成長を求める人に注力する時代になると
思います。
ウィリアム・ウォードの言葉、「最高の教師は子どもの心に火をつける」は、
「考育」の精神を象徴していると感じます。教育や育成の場において、最も
重要なのは、受け手が自ら学びたいという情熱を持つことを促すことです。
例えば、子育てにおいて、子どもが自らの興味や好奇心を追求することを奨
励することで、学習への自発的な動機付けが生まれます。また、ビジネスの
世界では、部下に目標を説明し、彼らが自らの方法で解決策を見出す機会を
与えることが重要です。これにより、部下は自己効力感を育み、組織全体の
イノベーションと成長が促進されるのです。
この過程では、教える側が情報を伝えることに重点を置き過ぎると、学習者
は受動的な受け手になりがちです。学習者が主体的に関与することを失って
しまう場合もあります。情報は、やる気のある人においては、いくらでも取
れる時代です。彼らの役割は、知識を提供することではなく、学習者の中に
潜む可能性を引き出し、その成長を支援することにあります。
21世紀の教育とリーダーシップにおいては、伝統的な「教育」から、より参
加型で自発的な「考育」への移行が求められると思います。これは、知識の
伝達だけでなく、学習者の内なる情熱を引き出し、彼らが自ら学び、成長し、
自分自身の可能性を最大限に発揮できるよう支援することを意味します。