万引きドラマ
かなり前の話ですが、ある保安員から聞いた話です。
その保安員は、かなりのベテランでその日は、 自宅近くの大きなショッピングセンターを私服警備員として巡回を していました。
万引きされやすい商品を熟知している彼女は、 女子高生に人気のアクセサリーや化粧品、 小物が置かれている売り場を中心に目を光らせていました。
万引きされやすい商品を熟知している彼女は、
すると明らかに、不審な行動をしている女子高生がいました。 学校の下校時間なのでしょう、女子高生は制服を着た状態で、 万引き行為をしようとしているところでした。 保安員は近くに寄り過ぎると気が付かれてしまうために、 少し遠い距離から目視をしました。そ
の行動は万引きの特徴そのもので、 辺りを注意深く見回しています。 かなり緊張した様子がこちらにも伝わります。その女子高生が、 自分の鞄の中に入れるのをはっきりと保安員は現認することができ ました。それでもすぐには近づかず、その動向を注視しました。 女子高生の場合、グループで行う場合が多いからです。 仲間がいないかを注意深く見てみましたが、単独犯のようです。 商品を5品ほど、万引きしています。
保安員は、店舗から離れた女子高生に対して、 後ろから肩を叩いた後、 正面を向かせてはっきりとした口調で声をかけました。
「万引きしましたね。」
この保安員は、あいまいな声かけをしません。はっきりと伝えて、 その表情や対応を読み取るのです。
女子高生は、小さく「えっ・・・」 と嗚咽のような驚きのような声を出しました。 女子高生の表情がみるみる変わり必死に、 どうしたらごまかせるかを頭の中で考えているのが手に取るように わかりました。下を見ていた女子高生が、顔を上げて、 何かを言おうとしましたが、 保安員のすべてを見透かすような顔をみて、 言葉が出ませんでした。「おばさんは、 このデパートの保安員だけど、 はっきりとリップと化粧品をその黒い鞄に入れたのを見たよ」
女子高生はしばらく無言でしたが、 ごまかすことをあきらめて声に出さず、頷きました。
保安員は、その女子高生をゆっくりと観察しました。その日は、 本当にたまたま自宅近くのデパートに勤務していたために、 その女子高生の制服には見覚えがありました。 近くの有名女子高の制服です。
女子高生は、暴れたり、否定したりすることもなく、無言で、 保安員に促されるまま、警備室に連れていかれました。 商品を出させると、5品目程度の商品を鞄の中に入れていました。 保安員は、警察に通報するか? 親に連絡をするか? 少し迷いました。その女子高は校則が厳しく、 警察に送られることで、 何かの処罰があるのではないかと思ったからです。親心をだして、
「お母さんは家にいますか?単独では返せない。 迎えに来てもらいます。」
というと、女子高生は初めて、強く抵抗し、
「お母さんは、嫌です。お父さんにしてください。」
と父親の連絡先を伝えてきました。
「お父さんは、会社でしょ。」
と保安員がいうと、それでも父親でお願いしたいと強くいうので、 その旨を父親に伝えました
父親は、1時間ほどで警備室に来ました。 英国紳士風の身なりをしていて、 それなりの会社の人であろうことが分かりました。
父親は、警備室に入ると辺りを見回しました。少し、 息を切らしており、落ち着かず、肩で息をしています。
警備室は、保安員、女子高生、店長、店員も数人いました。
父親は、座っている女子高校生を見ました。父親と女子高生は、 顔を見合わせたまま、無言でした。
父親は、周りの人を見回し、「店長さんでしょうか?」 と確認をするとその目の前まで出ていき、緊張した顔で、突然、 意を決したように座り込み、 地面に両手をついて頭を床に擦り付けました。
「娘の行為は許されることではありません。 誠に申し訳ありません。責任はすべて私にあります。 本当に申し訳ありません。私が警察に行きますので、何卒、 娘を許していただけないでしょうか?」
本当にすべてを投げ出しているような心の声のように感じました。 大きな声で、泣いているようにも聞こえました。
中年紳士が、 目の前で土下座をすることは思ってみなかったので信じられず、 誰も声になりませんでした。
店長が、父親の肩に手をおいて、警察は呼ばないことを伝え、 二人を解放しました。
店長は、その後、「あの土下座は、私ではなく、 娘にしたのだよね。愛していることを伝えたかったんだよね。 あの娘はもう、二度と万引きしないよね。 万引き犯に教えられたよ。」
と自分で確認するように保安員に言っていました。
万引き、させないことが一番だと思っています。